年金生活者が数字で見る日本 第3回 地方交付税

- 地方交付税とは誰のお金なのか? 都道府県の格差を埋める仕組み

前回は、都道府県の「財政力指数」を見ました。

東京都は別格。

愛知、神奈川、大阪、千葉、埼玉といった大都市圏は強い。

一方で、鳥取、高知、島根などは財政力指数が0.3を下回り、自前の税収だけで行政サービスをまかなうのはかなり厳しい状況です。

では、財政力の弱い県はどうやって行政を続けているのか。

その答えの一つが、今回取り上げる 地方交付税 です。

地方交付税――。

名前は聞いたことがありますし、新聞にもよく出てきます。

でも、普段の生活で「今日は地方交付税について考えながらコーヒーを飲もう」と思う人は、かなり少ないでしょう。

少なくとも、若いころの私はまったく考えたことがありませんでした。

「税金は取られるもの」

「国や自治体が勝手に使うもの」

「年末調整で少し戻ってくると、なぜか得した気分になるもの」

せいぜいその程度の感覚でした。

しかし、年金生活者になって、国保や介護保険料、固定資産税、自動車税、医療費などと直接向き合うようになると、税金の見え方が少し変わってきます。

これは誰のお金なのか。

どこから来て、どこへ行くのか。

自分の住む地域の行政サービスは、何に支えられているのか。

そういうことが、だんだん気になり始めるのです。

地方交付税は、「国からの仕送り」に見える?

地方交付税を大ざっぱに言えば、財政力の弱い自治体に対して国が配るお金です。

ただし、ここで少し注意が必要です。

「国が配るお金」と言うと、まるで国が太っ腹で、地方にお小遣いを渡しているように聞こえます。

でも、国のお金はもともと私たち国民や企業が納めた税金です。

つまり、地方交付税は空から降ってくるお金ではありません。霞が関の金庫から自然に湧き出すお金でもありません。元をたどれば、私たちが払った所得税、法人税、消費税などの国税です。それを国がいったん集め、地域間の財政格差を調整するために地方へ配り直している――これが地方交付税の基本です。

家計で言えば、収入の多い家族が一度お金を持ち寄り、生活費が苦しい家族に回すようなものです。親戚一同で集めたお金を、病気や介護、失業などで困っている家に回す仕組みと言ってもいいかもしれません。

もちろん実際の制度はもっと複雑ですが、「年金生活者が数字で見る日本」としては、まずこのイメージで十分だと思います。

地方税が多い県、地方交付税が多い県

今回使用したのは、e-Stat(政府統計の総合窓口)から取得した「令和6年度・地方財政状況調査表」の都道府県分(表4「歳入の状況・その1 歳入内訳」)です。

今回は、地方交付税の金額そのものではなく、「地方交付税 ÷ 地方税」の倍率で並び替えました。自前の地方税に対して、どれくらい地方交付税が入っているかを見るためです。
青が濃いほど、地方交付税の存在感が大きい県です。

順位 都道府県 地方交付税
÷
地方税
地方交付税 地方税 財政力指数 人口 高齢化率
1高知県2.05倍1,889億円920億円0.275656千人36.6%
2鳥取県1.97倍1,514億円770億円0.282531千人33.7%
3島根県1.94倍1,897億円976億円0.275642千人35.2%
4秋田県1.60倍2,083億円1,304億円0.327897千人39.5%
5和歌山県1.53倍1,943億円1,266億円0.329880千人34.5%
6徳島県1.48倍1,599億円1,078億円0.336685千人35.7%
7長崎県1.47倍2,432億円1,660億円0.3461,252千人34.7%
8宮崎県1.40倍2,023億円1,447億円0.3601,033千人33.9%
9岩手県1.38倍2,368億円1,715億円0.3631,145千人35.4%
10鹿児島県1.38倍2,943億円2,130億円0.3571,532千人34.2%
11山形県1.34倍1,971億円1,472億円0.3741,011千人35.6%
12佐賀県1.28倍1,609億円1,258億円0.361788千人32.0%
13沖縄県1.19倍2,384億円1,997億円0.3801,466千人24.2%
14大分県1.18倍1,915億円1,627億円0.3911,085千人34.4%
15青森県1.18倍2,275億円1,933億円0.3611,165千人35.7%
16石川県1.15倍2,270億円1,979億円0.4981,098千人30.7%
17山梨県1.08倍1,473億円1,366億円0.403791千人32.0%
18奈良県1.05倍1,861億円1,776億円0.4161,285千人32.9%
19熊本県0.97倍2,338億円2,399億円0.4231,697千人32.6%
20山口県0.92倍1,909億円2,071億円0.4511,281千人35.5%
21福井県0.91倍1,421億円1,560億円0.421739千人31.8%
22富山県0.87倍1,555億円1,783億円0.466997千人33.2%
23香川県0.87倍1,352億円1,549億円0.459917千人32.8%
24愛媛県0.87倍1,830億円2,099億円0.4481,276千人34.5%
25北海道0.85倍6,604億円7,802億円0.4635,043千人33.3%
26福島県0.84倍2,527億円3,014億円0.5191,743千人33.7%
27新潟県0.81倍2,686億円3,313億円0.4682,099千人34.2%
28長野県0.70倍2,264億円3,238億円0.5271,987千人32.9%
29岐阜県0.66倍2,072億円3,160億円0.5381,916千人31.4%
30岡山県0.63倍1,839億円2,911億円0.5291,831千人31.2%
31滋賀県0.61倍1,438億円2,360億円0.5491,402千人27.3%
32三重県0.54倍1,707億円3,155億円0.5741,711千人30.9%
33京都府0.52倍2,039億円3,933億円0.5812,520千人29.8%
34栃木県0.47倍1,571億円3,328億円0.6191,885千人30.5%
35群馬県0.47倍1,573億円3,370億円0.6101,890千人31.1%
36宮城県0.47倍1,719億円3,671億円0.6072,248千人29.6%
37広島県0.47倍2,063億円4,397億円0.6022,714千人30.4%
38兵庫県0.44倍3,764億円8,571億円0.6225,337千人30.2%
39茨城県0.43倍2,135億円4,933億円0.6362,806千人30.9%
40福岡県0.41倍3,254億円7,842億円0.6365,092千人28.6%
41静岡県0.33倍2,063億円6,231億円0.6833,527千人31.2%
42埼玉県0.28倍3,028億円10,848億円0.7437,332千人27.5%
43千葉県0.26倍2,628億円9,978億円0.7516,251千人28.1%
44大阪府0.23倍3,672億円15,916億円0.7548,757千人27.6%
45神奈川県0.11倍1,606億円14,590億円0.8639,225千人26.0%
46愛知県0.10倍1,564億円15,816億円0.8787,460千人25.8%
47東京都0.00倍0億円68,848億円1.21114,178千人22.7%

※地方税・地方交付税は、令和6年度地方財政状況調査表「歳入の状況・その1 歳入内訳」の決算額を億円単位で表示。地方交付税 ÷ 地方税は小数第2位で表示。

地方税を見ると、やはり東京都は圧倒的です。人口が多く、企業が集まり、経済活動が大きいため、自ずと税金が集まりやすい構造になっています。愛知県、神奈川県、大阪府、埼玉県、千葉県なども同様に強い税収力を誇ります。

一方で、地方交付税を見ると景色が一変します。

東京都は財政力が強いため、地方交付税を受け取っていません(不交付団体)。しかし、高知県、鳥取県、島根県、秋田県などでは地方交付税の存在感が非常に大きく、自前の地方税よりも地方交付税の金額のほうが多い(1倍を超える)県も珍しくありません。

これだけを見ると、「地方は国に頼りすぎではないか」と思う方もいるかもしれません。ですが、話はそう単純ではないのです。

これは「地方の甘え」なのか?

人口が少ないからといって道路を放置するわけにはいきません。

高齢者が多いからといって医療や介護をやめるわけにもいきません。

山間部だからと防災を後回しにはできませんし、雪国で「今年は予算がないから除雪しません」というわけにもいきません。

行政サービスには、一定の「固定費」がかかります。

夫婦2人暮らしでも、ひとり暮らしでも、冷蔵庫や洗濯機、エアコンは必要です。世帯人数が半減したからといって、家電の費用や生活インフラがキレイに半分になるわけではありません。

自治体もまったく同じです。人口が少ない地域であっても、道路、橋、学校、病院、消防、役場の機能は維持しなければなりません。むしろ人口密度が低い地域ほど、住民1人あたりの行政コストは高くなります。

つまり地方交付税は、単なる「努力不足の補填」ではなく、地域ごとの地理的・社会的な条件の違いを平準化するための仕組みなのです。

当然、無駄遣いは許されませんし、自治体側も人口減少に応じた見直しや効率化を進める必要があります。しかし、地方交付税を「地方へのばらまき」と切り捨ててしまうのは、少し違うのではないかと感じます。

たばこ税で地方に貢献していた(?)かもしれない話

ここで少し、私自身の昔話をさせてください。

今はきっぱりやめていますが、私は40代半ばまでヘビースモーカーでした。銘柄はセブンスター。毎日2箱、飲んだ日は3箱。今思えば、自分の肺には本当に申し訳ないことをしました。当時の自分に会えるなら、「その煙、将来の医療費の前払いになるぞ」と説教してやりたいくらいです。

当時、セブンスターは1箱280円でした。

たばこには「国たばこ税」「たばこ特別税」「道府県たばこ税」「市町村たばこ税」、そして「消費税」がかかっています。つまり国税だけでなく、しっかり地方税も含まれているのです。

【1箱280円時代の税金内訳(概算)】

  • 国たばこ税(国税):62.52円
  • たばこ特別税(国税):16.40円
  • 道府県たばこ税(地方税):19.38円
  • 市町村たばこ税(地方税):59.54円
  • 消費税5%(国・地方):13.33円
  • 【税金合計】約171円

1箱280円のうち、約171円が税金でした。そのうち「道府県たばこ税」と「市町村たばこ税」を合わせた地方分は1箱あたり約79円

毎日2箱吸っていたとすると、地方たばこ税だけで、 79円 × 2箱 × 365日 = 年間 約5万8,000円

酒を飲んで3箱吸った日も合わせれば、もう少し増えます。給料が安く、所得税では到底「高額納税者」とは言えなかった私ですが、「たばこ税部門」に限れば、それなりの貢献度だったのではないでしょうか。

40代の頃、ヘビースモーカーでした

ちなみに、現在セブンスターは1箱600円です。

【現在(1箱600円)の税金内訳】

  • 国たばこ税(国税):136.04円
  • たばこ特別税(国税):16.40円
  • 道府県たばこ税(地方税):21.40円
  • 市町村たばこ税(地方税):131.04円
  • 消費税10%(国・地方):54.55円
  • 【税金合計】約359円

健康には悪い。家族にも迷惑。部屋も服も臭くなる。良いことはほとんどありません。ですが、地方財政にほんの少しばかり貢献していたのも事実です。

できれば禁煙成功者には「長年のたばこ税納付に感謝し、記念品を進呈」くらいの粋な計らいがあっても良さそうなものですが……まあ、記念品が灰皿だったら困ってしまいますが。

税金は、自分の知らないところで回っている

たばこ税の話を振り返ってみると、税金というものは自分が意識していない場所でもしっかりと払っているのだと実感します。

所得税や住民税だけが税金ではありません。たばこ、お酒、ガソリン、消費税、自動車税、固定資産税……。私たちは日々の生活のあちこちで税金を納めています。

その一部は国に入り、一部は自治体に入り、さらに一部は「地方交付税」という形で全国へ再配分されます。自分が住んでいる自治体に直接入る税金もあれば、巡り巡って見知らぬ地域を支えるお金になるものもあるわけです。

そう考えると、「地方交付税とは誰のお金なのか」という問いの答えは、とても広くなります。

都会の人だけのお金でも、地方の人だけのお金でもありません。会社員、自営業者、年金生活者、企業、消費者、そしてかつてのヘビースモーカーも含めた、「国民全員のお金」なのです。

都会と地方は「一方通行」ではない

地方交付税のデータだけを見ると、「税収の豊かな都市部が、財政の厳しい地方を養っている」ように見えるかもしれません。たしかに、金額上の側面としてはそうです。東京や愛知、神奈川、大阪などは人口や企業が集中しているため、大きな税収を生み出します。

しかし、これは単純な一方通行の話ではありません。

都会は長年、地方から多くの人件・人材を受け取ってきました。地方で生まれ育った若者が都市部で働き、企業を支え、そこで税金を納めています。

また地方には、食料の生産、水源の確保、森林や自然環境の保全、エネルギー供給など、都市部の暮らしの根本を支える重要な役割があります。東京のビル群の中で米を作ることはできませんし、水源の森を管理することもできません。

そう考えると、地方交付税は「都会から地方への一方的な仕送り」ではなく、日本という一つの国をスムーズに維持するための「調整装置」なのだと言えます。

年金制度にも、どこか似ている

年金生活者という立場で眺めると、地方交付税はどこか「年金制度」にも似ていると感じます。

現役世代が納めた保険料で今の高齢者を支える――制度の仕組みは違えど、根底にあるのは「支え合い(相互扶助)」の考え方です。

地方交付税は「地域間の支え合い」です。税収の多い地域だけが潤い、少ない地域では基本的な行政サービスすら維持できないとなれば、一つの国としてのバランスが崩れてしまいます。年金も同じで、高収入だった人だけが安心して老後を送り、そうでない人は生活が立ち行かないとなっては社会が不安定になります。

もちろん、どちらの制度にも不満や疑問はつきものです。

「なぜ自分が払ったお金が他に回るのか」

「もっと効率的に使えないのか」

「無駄遣いはないのか」

そう思うのは当然ですし、私自身も税金や保険料の決定通知書を見るたびに溜め息が出ます。コーヒーの苦味も増すというものです。

ですが、だからといって「再配分」という仕組みそのものを捨て去ってしまえば、社会は途端に冷たく、住みにくいものになってしまうのではないでしょうか。

地方交付税は「魔法」ではないけれど

地方交付税は、地域格差を完全に消し去る魔法ではありません。

依然として東京や大都市圏は強く、地方交付税があったとしても、地方の人口減少や高齢化が明日から止まるわけではありません。若者が一斉に戻ってくるわけでもありません。

それでも地方交付税があるおかげで、各地で最低限の行政サービスが守られています。

  • 道路を修繕する
  • 学校を維持する
  • 医療や介護の体制を守る
  • 防災対策を進める
  • 雪をどける
  • 路線バスなどの足を確保する

こうした地味な作業の積み重ねに、お金が必要です。そして、こうした「地味なこと」ほど、失われて初めてそのありがたみに気づくものです。

ゴミが収集される。救急車がすぐに来る。道路が安全に通れる。役所で手続きができる。災害時に避難所が開く――。日常の「当たり前」は、すべて財政という土台の上に成り立っています。

おわりに

地方交付税とは誰のお金なのか。

答えは「国民全体のお金」であり、東京も地方も含めた「日本という国全体を維持するためのお金」です。

都心の高層ビル群で暮らす人も、山あいの集落で暮らす人も、同じ日本という社会の一員です。地方交付税はその格差をすべて埋めることはできませんが、「格差を放置しないための大切な仕組み」として機能しています。

年金生活者になって数字を眺め直すと、かつて遠い存在だった「地方交付税」が少し身近に感じられるようになりました。自分の年金も、医療も、地域の安全も、誰かが払ったお金と、それを支える仕組みによって回っているのだと実感します。

「税金は取られるもの」

若いころはただただ嫌なものでした。

でも今は、ほんの少しだけ違って見えます。

「税金は、巡り巡って誰かの暮らしを支えるものでもある」と。

……まあ、そう思ったからといって、納付書を見る目が優しくなるかと言われれば、そんなことはありません。やっぱり高いものは高いです(笑)。

ただ少なくとも、数字の向こう側にある「人々の暮らし」に思いを馳せるゆとりだけは、忘れずに持っていたいものです。

― 年金生活者の白日夢 ―
年金生活での投資と資産の取り崩しや年金、健康保険に関すること。
すべて実体験のお話です。

 

※本記事は筆者自身の経験や調査に基づいて作成しています。 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
年金制度や健康保険制度、保険料・税金等の取り扱いは、法改正やお住まいの自治体、年齢、所得、家族構成などによって異なる場合があります。最新の情報については、年金事務所や自治体窓口等でご確認ください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
※本記事は、67歳の年金生活者である筆者自身の体験や調査をもとに執筆しています。
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